労使協定書と協定届の違いとは?

労務に関する基本事項

2020年から2021年にかけて多くの手続き書類から労働者や使用者の捺印欄が削除され、当事務所でもその内容をインフォメーションでお伝えしてきました。そして2021年4月遂に36協定も捺印不要というニュースが飛び込んできました。その内容を紹介したリーフレットには小さい字でこう書かれていました。

あえて大きな字にしてみました。これを見て「え?協定書ってなに?」と思われた方も多いのではないでしょうか。実際、労働基準監督署には多くの問い合わせがあったようです。今日は【協定書】と【協定届】の違いについてお話してみたいと思います。

そもそも労使協定ってなに?

労使協定とは、使用者と労働者代表が、労働条件や会社のルールを労働基準法に基づいて協議して定めた書面のことを言います。労使協定を締結し所轄労働基準監督署に届け出れば労働基準法違反にはなりません(これを免罰効果と言います。ただし、労使協定を出していればどんなことをしてもOKと言う訳ではありません)。労使協定の役割をわかりやすく説明するために、まず次の条文をご覧下さい。

条文自体はまだまだ長いのですが、省略いたしました。まずは赤い太字の部分を読んでみてください。本来、労働基準法では、法定労働時間を超える労働をさせてはいけないのですが、書面による協定(労使協定)を行政官庁(所轄労働基準監督署)に届け出た場合には、労働時間を延長したり(いわゆる残業ですね)休日に労働をさせることができるという条文の内容になっています。労働者に法定外時間の労働をさせるには、使用者の一方的な指示だけではダメなんですね。労使協定を定め(締結すると言います)所轄労働基準監督署に届け出て、これでやっと法定外の時間外労働を命ずることができるのです。この条文に出ている労使協定がいわゆる36協定です。労働基準法第36条に書かれている労使協定なので、36(サブロク)協定と呼ばれています。労働基準法にはこのほかにも様々な労使協定が出てきます。届け出る必要のあるもの、ないもの様々です。これらについてはまた別の機会にお話しできればと思います。

労使協定書と協定届

実際に労使で協議した内容を書きとめる書面のフォーマットは決まっていません。協議内容を漏れなく記載し、労使が合意している証(つまり労使の記名押印がある)が書面にあればOKです。これを【労使協定書】と言います。しかし、労使協定書で定めた内容の中で、必要な事項は所轄労働基準監督署に届け出なければなりません。各企業ごと色々なフォーマットで、しかも会社独自の細かなルールが書かれた内容もバラバラな書類を提出されたら監督署ではチェックが大変ですよね。そこで監督署に提出する書類として【協定届】というフォーマットが出来ました。監督署に届け出る内容が全国どこでも同じフォーマットであれば確認しやすいですよね。

一人歩きを始めた協定届

このように【労使協定書】に記載された内容のうち監督署に届け出る内容としてまとめたものが【協定届】なのですが、「期限が迫っているから、とりあえず必要な事項だけまとめよう」などという考えが先行し、【協定届】が労働基準法に書かれている労使協定のデフォルトである(つまり労使協定書を作成するということを知らない)と思う方が増えてきました。最初の話に戻りますが、今回の捺印不要はあくまでも労使協定書があれば協定届の捺印は省略可なのですが、そもそも昨今は【労使協定書】をご存知ない方が多いのです。そのため、今回の混乱?になりました。

労使協定の作成で一番重要なことは

使用者と労働者が協議して会社のルールを定めるという労使協定はとても重要なものです。労働者の過半数代表者は民主的な方法で選出する必要がありますし、協定には有効期限がありますから一度作ったらおしまいではありません。「はいはい、ちゃんとやっていますよ」という声が聞こえてきそうですが、私は労使協定の作成で一番重要なことは次の内容だと考えています。

私は社会保険労務士として、様々な企業様で従業員のみなさんに労使協定の重要性をお話する機会があるのですが、自社の労使協定の内容を知らない、労使協定など見たことが無いという従業員の方、非常に多いです。就業規則などの自社規程や労使協定は従業員に周知して初めて効力を発揮します。みなさんは自分の会社の時間外労働の限度は何時間か即答できますか?(この質問に答えられる方の少ないこと…)36協定に限らず、自社の労使協定の周知方法について改めてご検討いただけると嬉しいです。

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