36協定を締結して届け出る上で見逃しがちな8つのチェックポイント

労務に関する基本事項

従業員に時間外・休日労働をさせるために労使間で締結し届け出が必要な36協定ですが、労働基準監督署の調査などで適正でないと判断されると、その36協定は無効とみなされます。36協定が無効ということは、すなわち時間外・休日労働を課すと事業主は労働基準法違法ということになります。これは大変重要な問題です。これから36協定の作成に取り組む方も、既に36協定を締結している方も、万が一に備えて正しく36協定を締結したか、再チェックをオススメします。

1. 36協定の作成義務を、就業規則と同じ「最低10人」だと勘違いしていませんか?

従業員に時間外・休日労働をさせる場合、従業員の規模に関わりなく36協定の締結・届け出が必要です。就業規則に関しては、労働基準法第八十九条において「常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。」とされており就業規則作成義務が10人のため、36協定も同じく10人からだと勘違いしている方が多いようです。私が労務相談等でお客様と初めてお会いする際には、まず36協定のチェックから入りますが、この1を勘違いされているお客様がとても多いです。

2. 36協定を締結する当事者である従業員代表者を正しく選出していますか?

36協定は労使間の協定ですが、もちろん従業員1人1人と協定を締結するのではありません。従業員の中から過半数が選出した代表者を選出し、その者と協定します(過半数とは、正社員だけでなく、パート、契約社員、休職中の社員すべてを含みます)。

なお、使用者は選出された従業員代表者に対し、従業員代表者であること、従業員代表者となろうとしたことなどを理由として、不利益な取扱をしてはいけません。また、不利益取扱い以外にも以下の点について注意が必要です。

従業員代表者は管理監督者であってはならない

労働基準法第41条第2号「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者」にあたる、部長や工場長などの労働基準法上の管理監督者は従業員代表者にはなれません。また、ここでいう管理監督者とは、いわゆる自社内の管理職と違う点に注意が必要です。

従業員代表者の選出方法は民主的でなくてはならない

使用者の指名や社員親睦会の幹事などを自動的に選ぶ、また事務担当者が勝手に自分の名前を記載する(論外です!)など、民主的でない方法で選出された従業員代表者は認められません。36協定を締結するために過半数代表を選出すると目的を明らかにした上で実施される投票による選挙、挙手などによる信任など、民主的な方法によって選出してください。最近の労働基準監督署の調査では、この選出方法が適切だったかどうかを厳しくチェックされます。

3. 36協定の締結・届け出は、事業所単位で行っていますか?

36協定は、事業所単位で締結し届け出る必要があります。支店や工場、店舗など複数の事業所を擁する企業であれば、それぞれの事業場ごとに締結して、それぞれを所轄する労働基準監督署へ届け出る必要があります。

事業所については厚生労働省の通達で「主として場所的観念によって決定すべきもので、同一場所にあるものは原則として1個の事業として、場所的に分散しているものは原則として別個の事業」としています。詳しくは「事業所等の数え方について(厚労省ページ)」をご覧下さい。

一定の要件を満たせば本社で一括届け出が可能

36協定は協定の内容が本社と本社以外の事業所で同一であるものについては、本社の所轄労働基準監督署への一括での届け出が認められます。ただし、以下の要件を満たす必要があります。まず、第1の要件として事業場の労働者の過半数で組織されている労働組合がない事業所に関しては一括届出が認められません。その場合は事業所ごとに個別に届け出る必要があります。

  • 本社と本社以外の事業場に係る協定の内容(事業の「種類、名称、所在地、労働者数」の4点以外はすべて)が同一であること
  • 本社の所轄労働基準監督署長に対する届出の際には、本社を含む事業場数に対応した部数の協定を提出すること

4. 36協定の施行日と労働基準監督署へ届け出る期限を正しく理解していますか?

36協定の有効期間の初日を起算日とし、起算日が協定の施行日となります。自社の勤怠の締め日や事業年度の月に併せて以下のように設定してください。

  • 20日締めの場合:〇月21日から1年間
  • 末締めの場合:翌〇月1日から1年間

また、36協定は施行日の前日までに所轄の労働基準監督署に提出しなければなりません。施行日以降に提出すると、提出日までの分は無効であると捺印されてしまいます。36協定には就業規則等の規程のような遡及効果はありません。また、前日が労働基準監督署の休日にあたる土日祝日に重なることもありますので、早目の準備・届け出をするように心がけてください。もし、提出した36協定が「これではダメだ!」と指摘されたら修正し再提出になりますよ。

5. 36協定の有効期限を毎年更新していますか?

36協定において、有効期限についての制限条項は設けられていません。しかし、労働基準監督署は「36協定の有効期間は最長でも1年間とすることが望ましい」と指導しています。また、36協定を作成する際に1年間の見直しを行う必要があることから、有効期限は原則1年となります。そして自動更新はありません。

36協定は労働基準監督署へ届け出て受理されてはじめて効力を発するので、有効期限が切れてからの時間外・休日労働は違法となります。36協定の有効期限が切れて空白期間が生じないように、必ず毎年労使間で締結して更新するようにしましょう。

6. 特別条項付きの36協定を締結する際に、時間外・休日労働に対する割増賃金率を設定していますか?

特別条項付きの36協定には時間外・休日労働の割増賃金率の取り決めを記載しなければなりません。2010年4月に施行された労働基準法の改正では割増賃金率が一部変更され、大企業は月60時間を超える時間外労働については50%以上の割増賃金を既に支払っています。中小企業については、この割増賃金率の変更は大きな負担となるため、これまで猶予措置がありました。しかし、これが遂に撤廃され、2019年からは中小企業も同等に月60時間を超える時間外労働については50%以上の割増賃金を支払う義務が課せられる予定です。

7. 特別条項で延長できる限度時間を短くするように努めていますか?

平成22年4月1日から、改正労働基準法が施行されるとともに、限度時間を超える時間外労働の抑制という観点から、特別条項で延長できる限度時間を短くするように努めることが求められました。特別条項はあくまでも 「臨時的に限度時間を超えて時間外労働を行わなければならない特別の事情が予想される場合」のために設けられたものです。長時間残業による過重労働での従業員の心身疾患発症リスクや労働基準監督署の調査の確率を抑えるためにも、時間外労働の抑制について事業主は早めに取り組んでください。

延長時間に関しては、以下の記事で詳しく解説しています。
36協定(特別条項)の延長時間で超えないようにすべき限度を、政府見直しを前に徹底解説

8. 締結・届け出た36協定を従業員へ周知していますか?

締結・届け出た36協定については、就業規則やその他の労使協定と同様、常時各作業場の見やすい場所への掲示、書面を交付するなど、従業員に周知する必要があります。ファイルにいれて書棚の中…では周知したことになりません。

現在の36協定が適正に作成されているかご確認を

いかがでしたか?「毎年全部クリアしています!」といえる企業様は素晴らしい!ひとつでも知らなかったことがあれば、次回の36協定締結時までに直してくださいね。せっかく作成した36協定も、適正でなければ無効とみなされ、従業員に時間外・休日労働を課すことは違法になってしまいます。厚生労働省が過労死等防止啓発月間の一環として過重労働解消キャンペーンを実施していることもあり、重点監督の対象として立ち入り調査に入られた企業も多いかと思います。

この記事で取り上げたチェックポイントの他にも気になる点やご不明な点がありましたら、どうぞお気軽にTHE STAR社労士事務所へご相談ください。現在の36協定が適正に作成されているか診断も行っております。この機会に見直してみてはいかがでしょうか。


参考リンク

時間外労働の限度に関する基準(厚生労働省)

時間外・休日労働に関する協定届 記入の手引き(東京労働局)

36協定様式のダウンロード(PDF)(東京労働局)

36協定届の記入例(東京労働局)

36協定の締結当事者となる過半数代表者の適正な選出を!(厚生労働省)

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